世の中には皆が欲しがる土地もあれば、誰も見向きもしない土地もあり、その温度差が埋められればと思う毎日である。
土地を国庫に返納できるようにする制度創設へ
特に地方の山間部や農村部などではタダでもいらないといわれる土地もあり、所有者の方から相談をうけることがある。ほとんどの方が「市町村の役所に行って寄付を申し出たけど断られてしまった」と仰る。結局売るにも売れず、引き取り手がなくそのまま放置されてしまうことになる。
最近、不動産の所有権を国庫に返納できるようにする制度を含む所有者が分からない土地対策に関する法案の審議が国会で行われており、成立すれば2023年度には制度化される見込みである。
しかし、簡単に国返納できるようになるかというと、必ずしもそうではないようである。
「地方の不動産王」実は借金まみれ…相続放棄した息子が見た「“負動産”のその後」|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_1012/n_12685/
こちらの記事によれば、現場で不動産登記に従事する司法書士などからは懐疑的な声があるようだ。
そんなに都合良くはいかない
現状でも所有者の分からない土地を国庫に返納できる法体系になっているが、国の引き取りのハードルは高い。今回国庫返納が明確に制度化されたとしても、返納できる土地に条件が付けられ、仮に条件を満たしたとしても、10年分の管理費を収める必要があるという。
北海道の不動産事情に詳しい方の話では、”使い途のない土地をどうしても引き取ってもらう場合には10年分の固定資産税相当額を持参金として付けるのが相場”という話を聞いたことがあり、おそらくそれに近い管理費が必要になるかも知れない。
また、上記の記事では国に引き取ってもらうための条件が想定されている。
(1)更地であること→空家等があれば取り壊し
(2)抵当権が設定されていないこと
(3)境界の争いがないこと→境界確定測量を行う必要性
(4)土壌汚染がないこと→(地中残置物も含めて)後始末を済ませておく必要性
などが想定されているが、おそらく最低限の条件としてこの程度は付される可能性は高いと思われる。何故かというと、不動産を売却するとき求められる条件に近いからである。
つまり、売り物に近い状態にまでしないと引き取って貰えないということである。(もちろん買い手が付かないような土地だから売り物にはならないのだが。)
逆に、買い手/貰い手の立場になって考えてみれば、タダでもらったとしても多額の解体費がかかる、境界争いで嫌な思いをする、土壌汚染や地中残置物の後始末をさせられるのでは、価値のある土地であれば土地価格から処理費用を引けば買ってもいいかもしれないが、そうでなければ、貰っても苦労も一緒に貰うだけである。
さらに、土壌汚染や地中残置物があった状態でも引き取ってくれるのであれば、「やりたい放題散らかして後は国が面倒を見てくれる」というモラルの低下を招きかねない。
国が面倒を見ると言うのは税金で処理するということになり、やった者勝ちになってしまうから認めるべきではないだろう。
義務逃れはできない
結局のところ、”土地所有権の放棄が制度化”されたとしても「後始末」から逃れられるわけではない。
むしろ、不動産登記の義務化と相俟って責任の所在がより明確になる可能性が高い。
早いうちから「出口」を考えなければ、”ツケ”を子孫に残すことになってしまうことになるだろう。