先日、一般社団法人しずおか民家活用推進協会の総会があり、同会の理事に就任しておりますので参加しました。
理事会の後、記念のシンポジウムが行われ、東京の谷中、根津、根岸界隈の明治・大正・昭和の建物を住まいや店舗、アート活動の拠点として古民家の活用に取り組まれている國學院大學観光まちづくり学部教授でNPO法人たいとう歴史都市研究会理事長の椎原晶子さんが「ひとをつなげる民家活用」の基調講演をされました。
また、事例報告としてスルガノホールディングス株式会社の取締役CSOの松下 壽さんが、「静岡蒲原の民家活用のビジネスと地域活性化」と題して、静岡市の蒲原地区で民家を活用した地域おこしの事例を報告されました。地元静岡市で、リスクを取りつつ地域のために活動されているスルガノホールディングスさんの取り組みは非常に素晴らしいもので、特に旧東海道の名残を随所に残す、由比・蒲原地区は後世に伝えたい建築物が多数あり、困難も多い事業に積極的に投資されている事は社会的にも大変意義のある事業活動だと思います。
基調講演の椎原さんの講演もまた素晴らしいものでした。
いわゆる「谷根千」と呼ばれて滋味ある町並みから人気の高い地区で、静岡市のような地方都市とは違うのではないかと思って講演を聴講したところですが、逆に地方から出てきた人が集まる東京ならではの苦労あるいはメリットもあり、非常に興味をそそられる講演でした。
古い町並みのある街として知られる谷中地区もここ30年の間に古民家は半減しているのだそうです。
東京は地価が高く、それほど大きくはない土地であっても評価額が高くなるため、相続税の対象になりやすく、一般的な不動産マーケットに乗ってしまうと古民家はあまり歓迎されるものでもないことや、収益性の問題も相まって、取り壊して新しい建物、中高層の建物に建替えられてしまうことが往々にしてあります。
そうしたことから、相続税はかつての文化を使える古民家にとっては高いハードルになっているといえます。
一般的な不動産のセオリーからすれば、特に東京のような都市部では新しく機能的な建物のほうが好まれるのは間違いないのですが、単にキャッシュフローや利回りでは説明しきれない価値もあることは確かで、「価値」という視点からも深く考えさせられるお話しでした。
講演の最後に、都心部に土地を持つ方が、周囲が高層建築ばかりになったことに嫌気して、谷中の約3億円の古民家を購入して住まわれたという事例が紹介されました。一般的には進んで古民家を買うということはあまり考えにくく、所得水準の高い東京で会っても3億円近いしかも古民家を買うような人が現れるとは到底思えないのですが、意外な価値に着目する人も現実にはおられるということで目から鱗でした。
不動産のマーケットで、売れやすくするには多数の需要者にウケるものを供給しなくてはなりませんが、不動産が売れるためには買主が1人いれば十分であり、その一人を見つけることが不動産売買の仕事です。
実際に「これは売れるだろう」と思っていた物件が苦戦したり、買手はつかないだろうと思っていた物件にお客様が現れ、理由を伺うと「そういう視点もあったのか」と感心させられることもあります。
古民家そして不動産に関わることの醍醐味を教えて頂いた今回の講演でした。