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不動産取引とM&A・事業承継の線引

不動産の売買といってもその対象となるものはいろいろあります。
最も一般的なのは住宅の取引でしょう。
宅地建物取引業法は一般の住宅やマンションの取引を前提に考えた設計になっています。

■宅建業の制度設計は住宅が基本
例えば最近は、建物に付帯した設備について宅建業者の説明が詳細に求められるようになってきましたが、住宅の設備を前提に説明書類が作られているため、例えば飲食店舗の売買などは資料の作成に苦労します。特に賃貸店舗で建物の所有権の売買をする場合をオーナーチェンジといいますが、その場合は大変です。
動産は不動産のような登記制度がありませんから、所有権の存在を当事者以外が特定することは大変な困難が伴います(むしろ不可能と言って良い)。機械設備の評価の場合でも所有権については依頼者の申告が正確であるという前提を設定して業務を行い、所有権の特定については責任を負わないことを前提としています。
勿論、消費者保護も大事なのですが、不動産の専門家に動産の権利や状況について詳細な説明まで求めることは無理がある話だと思います。事業に関係する雇用などの問題は尚更です。

■経営者の引退で売りに出される不動産
少子高齢化、そして経済の伸び悩みが長期化し今後の衰退傾向も見込まれる中、企業の廃業も増えてきました。経営していた会社や商店をたたんで不動産を売りに出すケースが一般的ですが、中には経営者として培ったノウハウを残したいとか、庭園を残したい、家畜がいるがそのままの環境を残したいといった希望から、事業を行っていた状態のまま不動産を売却したいというような話がこのところ複数入ってきました。
宅建業者は不動産売買のプロではありますが、それ以外の動産や営業権についてまでご存じの方もいらっしゃるかも知れませんが、専門外であることが圧倒的に多いと思います。
工場の中にある機械設備を可動状態で譲渡したり、家畜や植物の世話が必要な場合には従業員がいるケースがありますが、こうした不動産以外の所有権、義務や権利はその分野に詳しい専門家の介在が必要であるため不動産取引でなく、企業の売買(M&A)や事業承継として行われるべきものです。

■不動産取引とM&A・事業承継の違いと線引き
不動産取引とM&A・事業承継の明確な線引きは難しいですが、特に雇用関係を含んだ経営権の移転が伴うものは不動産取引ではなくM&A・事業承継として処理すべきではないでしょうか。また企業自体を譲渡・買収したいのであれば、株式会社の場合は株式の取引で処理した方が円滑に権利移転ができます。
資産価値の視点からも、不動産取引の場合は市場性の観点(マーケットアプローチ)がメインになりますが、M&A・事業承継においては収益性(インカムアプローチ)がメインになります。不動産は事業を行う上で重要な要素ではありますがひとつの要素に過ぎません。
不動産取引でも賃貸用アパート・マンションなどのいわゆる「収益物件」の取引は事業用資産の取引にはなりますが、いわゆる大家業は雇用関係など高度な責任と経営スキルが必要とされるものではなく、システマチックになることから一般的なものは不動産取引の範疇に入れても差し支えないものと思われます。

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