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説明義務の法的根拠は何?

不動産を含めて物の売買をするときには、そのものがどのような物か、売主は買主にきちんと説明する義務があります。
買主、つまりお金を出す方の立場としては、どのような物かよく分からないような物は普通は買いません。どのような物であるかが分かれば価値判断が可能であり、自分の期待する物にふさわしいと思えば、お金を出して買うでしょう。
であるから、売主は買主が判断を誤らないよう、過不足なく説明義務が課されると考えるのが一般的です。

あるところで、「何故説明しなければならないのか、法的義務があるのか、どこの法律の何条にそんなことが書いてあるのか?」と尋ねられました。

しかし、知っているようで意外と知識としては抜け落ちていたりします。売買契約のことだから民法じゃないか?くらいは想像がつきますが、何条にそれが書いてあるかといわれると、恐らくチコちゃんに叱られちゃう人も多いのではないでしょうか。

そこで、いろいろ調べてみました。

結論から言えば、「説明義務」と直接明記している条文はありません。

但し、最高裁は判例で、民法第1条第2項の規定から「説明義務」を認めています。

民法第1条第2項は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と規定しています。
「信義誠実の原則」あるいは「信義則」と呼ばれるもので、説明義務もこれに含まれるものであるとされています。

さきほど、「売買契約のことだから」と書きましたが、説明義務が生ずるのは売買契約に入る前の段階です。
一般的に物を買う場合、どのような物か目で確認して、あるいは売主から話を聞いてそれがどのようなものであるか納得してから、
「これをください」
と、意思表示をします。これに売り手が同意して売買契約が成立し、売り手と買い手に初めて義務が生じます。

したがって、説明責任は売買契約上の義務ではないのです。

令和2(2020)年4月1日に民法が改正されましたが、この改正に当たって信義則上認められている「説明義務」を明文化すべきという議論もあったようですが、ソナ内容を法律で明文化して定めることは非常に困難であるため、明文化を見送られたという経緯もあるようです。
ただし、売手と買手の間で情報の非対称性、つまり、双方で持ち合わせている情報の格差が激しいと一般的に考えられている分野(不動産、金融、保険、医療)などは、特別法で説明責任を具体的に定めています。不動産の場合、我々のような宅地建物取引業者には宅建業法第35条で定められた重要事項説明を行わなければなりません。また、最近では宅建業者が仲介(宅建業者とは別人の売主と買主との間に入ること)をする場合、宅建業者でも容易に知ることのできない情報(その場に住んでいなければ分からないような周辺環境や近隣関係のことなど)について売主の方に告知書の形で書いて頂くことになっています。

もちろん、売主でさえも容易に分からないこともありますから、微細なことにまで全てについて説明し尽くすような責任は求められないとするのが一般的ですが、もちろん、知っていることを隠すようなことは許されません。まれに「個人情報」を盾に「一切説明しない」とする方もおられますが、隠したまま売り抜けて、買主に損害を与えるようなことがあれば、後から責任追及を受ける危険があります(情報漏洩の懸念がある場合は秘密保持契約を結んで相手方に情報提供をする方法がありますし、説明責任の範囲には限度があります)。

法的根拠以前に売買に入る以上は、信義に従い誠実に振る舞うことが社会的に当然に求められると考えておいた方が良さそうです。

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