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見えないリスクの恐怖-地中残置物

土壌汚染や埋蔵文化財、地中残置物といった土地に潜むリスクに対して厳しい目が向けられるようになってから相当の時間が経ったように思う。

これらの土地に潜むリスクはいずれも存在すれば所有者に思いコスト負担がのしかかるから、土地取引においては注意しなければならない項目である。しかも、ただ観察しただけでは目に見えないものであるから、脅威である。

実務でも地中埋設物の存在に泣かされることがしばしばある。
建物の解体といえば、地上にある建物の躯体を重機で取り壊すシーンを想像される方も多いのではなかろうか。建物は地面に据え付けられた基礎の上に建っている。基礎は種類にもよるが一部が地中に埋まっているものであり、建物を取り壊す場合には基礎まで撤去する必要がある。また、浄化槽やオイルタンクなどが地中に設けられることもあるが、これらももちろん撤去しなければならない。撤去しなければ廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)違反となる。

建設解体業者の方にお話を伺うと、地中残存物を残すような依頼があっても仕事は受けないと皆さん仰るが、施主の中には工事が始まってから費用が高すぎると代金支払いを渋ったり、想定外のものが見つかって処理を渋ったりして結果として地中に廃棄物が残存してしまうケースもあるようだ。

こうなった場合、後でその物件の取引に関わると大変である。
地中残存物があるかどうかは目視では分からないため、専ら関係者へのヒアリングということになる。しかし、関係者でも詳細が分からなかったり、記憶が曖昧なことは多い。関係者には土地・建物の所有者、解体工事に関わった業者や現場の係員、場合によっては近隣の住民が観察しているというケースもある。
土地・建物の所有者も個人の場合は比較的証言を得やすいが、工事業者に任せきりである場合にはほとんど把握していなかったり思い違いのケースもある。法人の場合は物件管理の担当者が交替していたりすると解体当時のことが分からないことは多い。担当者が社内にいればまだ良いが、退職していたりすると証言を得ることが難しくなる。
解体工事の業者にヒアリングする場合も、建設業界は孫請け、下請けの重層構造ができあがっているため、施主が依頼した業者と実際に工事をした業者が別であるケースがほとんどである。こうした場合は実際に工事を行った業者に問い合わせないと詳細が分からないことが多い。
こうなると、過去の建築関係の図面や写真、浄化槽であれば管理団体、オイルタンクの場合は消防署に届出が出されている場合もあるので、そちらも確認するなどして情報を集め、何が埋まっている可能性があるかを推定することになる。しかし、推定だから除去費用の見積もりは難しい。解体業者に見積もりをお願いすると「掘削にかかる費用+出てきたもの処理費」といったような抽象的な回答になってしまう。さらに、闇雲に地面を掘ってしまうと土地の地盤を痛めてしまうリスクもあるため、勧奨されないことが多い。地中を音波などで探査する非破壊検査の技術もあるが、残念ながら現状では目視確認するのと同じような成果は期待できないとのことである。
こうしたことから、更地で土地を売買する場合には建設工事などで掘削して、地中残物が出てくれば売主が処理費用を負担したり、売主の前主の責任になるようなものが出てきた場合は費用を双方折半で処理といった対応が取られる。
厄介なのは借地人がいる場合で、地上に借主の施工した建築物があったり、駐車場として舗装したりされていると、借地人が退去するまで撤去はもちろん調査もできない。数年で借地人が退去する場合は別として、数十年先となれば売主・買主の法的安定性の問題が生じる。このため、買主に地中残置物のリスクを説明して、そのリスクに見合う分の値引きをするしかない。もちろんそうした物件の処分は非常に困難になる。

地中残置物を残さないためには確実な工事を行うことが最も望ましい。また、しっかり工事をやったとしても、何か残っているのではないか疑い出すと疑心暗鬼に陥ってあれもこれも怪しいと疑いたくなってしまう。また、技術的な問題などで除去できず地中に残さなければならない物件もある。そうしたことが分かるように、担当した解体業者の方に現場の写真を添えた「業務実施報告」のレポートを作成してもらうことも有効である。もちろんレポートも万能というわけではないが有力な資料にはなる。

地中残置物は分からなくなってしまってからでは手遅れであるから、建物や設備のの解体・除去は早めに、できる限り抜かりなく行うこと。そして解体・除去の工事をどこまでやって、何が残っているのかが把握できるように工事の記録を残しておくことが重要である。


 

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