メニュー 閉じる

「~ものとする」症候群

不動産関係の契約書を目にすることが多いが、最初の頃から気になっていたのが「~ものとする」という表現である。
例えば「翌月分の賃料を月末までに支払うものとする」「○日迄に明渡すものとする」といった具合で契約書などで多用されている。

契約書イメージ

引っかかりを感じていたのだが、やはりしっかり考えなければいけないと自覚したのは公正証書を作成した時のものである。不動産契約などでは事業用定期借地権の締結において公正証書の作成は必須とされている。
公正証書を作成することになって、公証役場から契約書の原稿になるものを出して欲しいと言われ、宅建関連の団体で提供されている契約書の雛形をベースに作った契約書の原稿を公証役場に提出した。
数日後、公証役場から公証人が書いた公正証書の案が届いたのであるが、一読して本職の作る契約書の文言は実にエレガントなものだと思った。雛形に合った「~ものとする」といった表現は必要最低限しか用いられていないのだ。

「~ものとする」という表現は使っていけないわけではない。
ネットで検索してみるとやはり同じことを感じている人がいらっしゃるようで、複数の弁護士のサイトで「~ものとする」の表現について解説していた。
解説は人によって異なるものの、主として
①原則や方針を示す
②義務づけをする(但し弱い義務付け)
といった意味になると説明されている。

つまり、どちらかといえば、義務づけとしては弱い意味になってしまう。
そもそも契約書は当事者間の義務と権利をはっきりさせるもの、つまり、誰が何をどうするかは明確化するものであるから、曖昧な表現は避けた方がいい。
契約書で「買主は○月○日に金○○円を支払うものとする。売主は買主の支払いと同時に○○を引き渡すものとする」とされていれば、曖昧なニュアンスが残るが、「買主は○月○日に金○○円を支払う。売主は買主の支払いと同時に○○を引き渡す」とされていれば、当事者を拘束する意味は強まるといえる。

ただ、「~ものとする」の表現に慣れ親しんだ人にとっては「~する」という表現を”表現がきつすぎる”と感じるようで、原稿を提示すると表現がきついと指摘を受けることがある。ただ、不思議なことにその場合でも語尾の「である」調を「です・ます」調に変えて欲しいとリクエストされ、「~ものとする」の表現にして欲しいと言われることはない。

実際のビジネスは人間関係だから相手に強い義務を課したり、自らも契約になるべく拘束されたくないという意識は潜在的に働いているから「~ものとする」という柔らかい表現を好んで使いたくなるのではなかろうか。しかし、契約である以上、相手に何を与えて相手からは何をしてもらえるのかは明確にする必要がある。そんな微妙な心理が契約書の文言を変えているのかも知れない。

関連情報